【研究室コラム】消毒が必要な洗濯物
クリーニング所は、なんでもクリーニングできるわけではありません。特に、「消毒を要する洗濯物」は一般のクリーニング所では受け付けられません。保健所へ届け出た、伝染病関係などの消毒が必要な洗濯物を取扱う「指定洗濯物取扱施設」での扱いとなります。2024年度末現在、クリーニング所施設数は67,551箇所ありますが、「指定洗濯物取扱施設」は3,510箇所(約5%)しかありません(厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例」)。
クリーニング業法で「消毒を要する洗濯物」として定められているのは以下の洗濯物で、「指定洗濯物」と呼ばれ、クリーニングの営業者に引き渡される前に消毒されていないものが対象です。「伝染病の疾病」や「病院での療養」に関連した洗濯物を消毒するのは当然ですが、「おむつ、パンツ類」、「手ぬぐい、タオル類」も対象となります。さらに、ホテルの寝具類などを扱うリネンサプライ業の「バスタオル、フェイスタオル類」も対象となります。

「消毒」とは何でしょうか? 文字通り、「毒を消す」ことでしょうか?類似の用語に「滅菌」「殺菌」「除菌」「抗菌」があります。これらの用語は、どれも似たような感じですが、それぞれ意味が違います。
【微生物を死滅させるか、させないか】 「滅菌」「殺菌」「消毒」「除菌」「抗菌」の5つの用語には、定義上、微生物※(≧菌※)を殺すものと殺さないものがあります。 ※微生物とは 肉眼で見えないほど小さい生物の総称で、 細菌、真菌(カビ、酵母)、ウイルス、原生動物(アメーバなど)、微細藻類など多岐にわたる。 ※菌とは、微生物の中の一つのグループで、真菌(カビ・酵母・きのこなど)や、広義に細菌(バクテリア)も含める。
「滅菌」「殺菌」は、程度の差はありますが、微生物を殺して減少させることを意味します。「消毒」「除菌」は、微生物の毒性をなくしたり数を減らしたりすることを指し、微生物を殺して数を減らす方法も、拭き取って取り去るだけの方法も含まれ、必ずしも殺すとは限りません。「抗菌」は増殖を防ぐことで、今いる微生物を殺すかどうかは関係がありません。
| 用語 | 微生物を死滅させる程度 |
| 滅 菌 | 完全に 殺して減少(100万分の1) |
| 殺 菌 | 必要なだけ 殺して減少( >0% ) |
| 消 毒 | 害のない程度に 殺すor/and拭き取りで減少 |
| 除 菌 | 増えない程度に 殺すor/and拭き取りで減少 |
| 抗 菌 | 増殖を防ぐ 今ある微生物の殺傷は関係なし |
ほぼ完全に微生物を死滅させる「滅菌」が最も強力で、「殺菌」は目的に応じて必要なだけの微生物を死滅させることを意味します。「消毒」は害のない程度に、「除菌」は増えない程度に、微生物の数を減らすことで、必ずしも死滅させる必要はありません

【使用できる用語と薬機法】
製品の広告表記においては、薬機法※(やっきほう)で使用してよい表現が定められています。「滅菌」「殺菌」「消毒」の3つの表現は薬機法によって使用できる範囲が限定されており、医薬品・医薬部外品・医療機器などにのみ使用ができる表現です。「除菌」「抗菌」といった言葉は薬機法での使用制限はないため、洗剤等にも使用されています(除菌洗剤、抗菌洗剤・・・)。
| 薬機法に基づいて承認を得た製品にのみ使用可能 | 薬機法での使用制限は無し | ||
| 滅 菌 | 全ての微生物を殺滅または除去すること。 | 除 菌 | 微生物の数を減らすことで、必ずしも殺すことではない。 |
| 殺 菌 | 微生物を殺すこと(具体的な程度の定義はない)。 | ||
| 消 毒 | 病原性のある微生物を害のない程度まで死滅させたり、除去したりして感染力を失わせ、無害化すること。 | 抗 菌 | 微生物の増殖を抑制することで、殺したり減らしたりすることは含まれない。 |
※薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律):医薬品等の製造や販売などに関するルールを定め、保健衛生の向上を図ることを目的とする。
【指定洗濯物の消毒方法】
厚生省令で指定する洗濯物の消毒方法は次のとおりで、いずれも病原性のある微生物を感染症が起こらない程度まで殺滅または減少させることができます。
| 指定洗濯物の一般的な消毒方法
1.蒸気消毒(10分間以上、100℃をこえる湿度に触れさせるものをいう。) 2.熱湯消毒(10分間以上、80℃℃をこえる熱湯に浸すものをいう。) 3.ホルムアルデヒドガス消毒 4.酸化エチレンガス消毒 5.石炭酸水消毒 6.クレゾール水消毒 7.ホルマリン水消毒 8.過酢酸消毒 9.亜塩素酸水消毒 |
【消毒の効果を有する洗濯方法】
消毒の目的はあくまで「無害化」で、必ずしも微生物を完全に死滅させなくても、感染力を不活性化させたり、危険ではない程度まで取り除いたりすることも無害化なので消毒に分類されます。
そこで、上記に示した消毒方法に代えて行なうことができる「消毒の効果を有する洗濯方法」があります。「洗濯」処理は汚れを除去すると同時に、付着した微生物を取り除くことができます。熱や薬品による処理と同時に、洗濯処理を行うことで、病原性のある微生物を感染症が起こらない程度まで殺滅または減少させ、無害化することができます。
| 消毒効果を有する洗濯方法
1.80℃以上の熱湯で10分間以上洗濯する方法 2.サラシ粉、次亜塩素酸ナトリウム等を使用し、その遊離塩素濃度が 250ppm以上の液に30℃以上で5分間以上 浸し、終末濃度が100ppm以上になるような方法で漂白することをその工程の中に含む洗濯方法 3.パークロロエチレンに5分間以上浸し洗濯した後、パークロロエチレンを含む状態で50℃以上に保たせ10分間以上乾燥させるという方法による洗濯方法 4.150ppm以上かつ60℃以上の過酢酸水溶液で10分間以上洗たくする方法、又は250ppm以上かつ50℃以上の過酢酸水溶液で、10分間以上洗濯する方法 |
以前のクリーニング工場での消毒は、「過酢酸水溶液による消毒」が認可されておらず、次亜塩素酸ナトリウムの使用や、80℃以上の熱湯で10分間以上洗濯する方法でした。塩素は繊維を劣化させますし、80℃以上の熱湯はエネルギーを消費しますし、パークロロエチレンを加熱するのは危険です。
2022年(令和4年)9月21日、消毒を要する「指定洗濯物」の「消毒方法及び消毒の効果を有する洗たく方法」として「過酢酸水溶液」が追加・認可となり、指定洗濯物取扱施設のクリーニング所やリネンサプライ工場で採用され、繊維の劣化やエネルギーコストの問題が解消されました。
以上
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