【研究室コラム】ヨーロッパの新しい溶剤 Part 2(水溶性汚れ除去)
ヨーロッパでは、化学品メーカー数社が独自のドライクリーニング溶剤を開発し、主流のパークロロエチレン(パーク)の代替を目指しています。新しい溶剤は、さまざまな配合割合の「ハイドロカーボン(高引火点炭化水素)」と「変性アルコール」又は「グリコールエーテル」 の混合物です。
水溶性汚れの除去
ドライクリーニング溶剤の樹脂溶解力の大きさを表す「KB値」が大きければ、油性の汚れを簡単に溶解・除去することができます。
しかし、「KB値」が大きくても水溶性の汚れの「塩分、糖類、汗、尿素など」は除去できません。水溶性汚れを除去するには、一定量の水分が必要です。
ヨーロッパの新しい溶剤に配合された「変性アルコール」や「グリコールエーテル」は極性分子※(電荷の偏りがある分子)で、極性分子同士はよく溶け合うため、極性分子の水を溶解し、水溶性汚れの食塩や糖を除去することができます。
※極性分子:正電荷(+)と負電荷(-)の重心が一致せず、電荷の偏りがある分子(水、エチルアルコール)
ドライクリーニング溶剤の「ハイドロカーボン」や「パーク」は非極性分子※(電荷の偏りがない分子)で、非極性分子同士はよく溶け合うため、非極性分子の油脂やグリースを溶解・除去します。
※非極性分子:正電荷(+)と負電荷(-)の重心が一致し、電荷の偏りがない分子(炭化水素、パーク)
新しい溶剤に配合された「変性アルコール」や「グリコールエーテル」は、極性分子の水にも、非極性分子のハイドロカーボンにも溶解します。
これらの溶剤の特性を組み合わせた結果、新しい溶剤は水溶性汚れも油性汚れも除去することができます。
新しい溶剤
ヨーロッパの新しい溶剤は、HiGlo、Intense、Ktex、Arcaclean、SENSENEです。
新しいドライクリーニング溶剤の特性(CINET SolvetexVより)
①HiGlo、Intense、Ktex は、グリコールエーテル※を配合した強化ハイドロカーボン溶剤で、配合割合が異なります。グリコールエーテル配合により、溶剤は水分を吸収する能力があり、水溶性の汚れやシミを取り除くことができます。洗浄性能はハイドロカーボン以上、パーク以下です。
※グリコールエーテル:分子内にエーテル基(R-O-R`)、水酸基(-OH)があり、水にも有機溶剤にも溶け、樹脂を溶解させることが可能な溶剤
➁Arcacleanは、数種類のグリコールエーテル溶剤と約2~3%の水との混合物で、人体や環境に有害とならない溶剤として開発されました。この溶剤は一定量まで水と混ざり合い、水溶性の汚れやシミを取り除くことができますが、水の分離が困難です。特許を取得した洗浄システムでは、水分離器は使用せず、溶剤を精製して余分な水を取り除くために新たなドライ機が開発され、特殊な蒸留をします。この溶剤の洗浄性能はパークと同等です。
③SENSENEは、変性アルコール※をベースにしたドライクリーニング溶剤で、水分を吸収して水溶性の汚れやシミを取り除くことができ、洗浄性能はパークよりも優れています。
※変性アルコール:飲食用に転用することを防ぐために、変性剤を添加したエチルアルコール(C2H5-O–-H+)
まとめヨーロッパで開発された新しい溶剤は、ハイドロカーボンやグリコールエーテル、変性アルコールをベースにした混合溶剤で、水分を吸収し、保持する性能があり、水溶性汚れを除去できます。いずれもハイドロカーボンよりもKB値が大きく設計され、取扱表示Ⓟに匹敵するような、より大きな洗浄力の溶剤で、パークの代替品となることが期待されています。 ただし、変性アルコールやグリコールエーテルと水は互いによく溶け合うため、水分含有量を適切に管理する必要があります。新溶剤は、配合物の沸点の違いや水への溶解度の違いにより、蒸留および水分離後の配合割合が変化する可能性もあります。使用中の溶剤組成の定期的なチェックも必要でしょう。 日本では、一定量の水分を含んだドライソープを洗いの工程で添加し、水溶性汚れを除去するシステムが一般的です。このシステムは、ヨーロッパの新溶剤と比較して洗浄性能では劣りますが、安全性と安定性では優れていると考えます。 新しい溶剤の購入コストはハイドロカーボンやパークに比べて高くなります。ほとんどの新溶剤がマルチ溶剤機械※での稼動となりますが、その購入コストはパーク機械のコストよりも高くなります。
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※マルチ溶剤機械(多種類の溶剤兼用機):ハイドロカーボン、Green Earth(環状シリコーン)、SOLVON K4(ジブトキシメタン)に加えて、Intense、Higlo、Ktex、SENSENS等の新規溶剤が使用可能
参考資料:CINET (プロフェッショナル繊維ケアの国際委員会) Solvetex IV
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