【研究室コラム】消費生活センターへの相談
消費生活センター等(消費生活相談窓口を含め、全国の都道府県・市町村に約850か所)は、商品やサービスなど消費生活全般に関する苦情や問合せ、消費者からの相談を専門の相談員が受け付け、公正な立場で処理にあたっています。クリーニングに関する相談も同様に処理されています。
クリーニングは、他のサービスと異なり、消費者の目の前で行われないサービスであるため、トラブルになりやすい傾向にあります。全国の消費生活センター等が扱ったクリーニングに関する相談件数は、バブル経済期の1986年から1991年に増加します。バブル崩壊後に一時減少しますが、1996年から2002年には年間1万1千件を超えるピークを迎え、相談件数の第1位となります。その後、減少に向かいます。
消費生活センターへの相談内容 |
過去に消費生活センターが扱ったクリーニングに関する相談は、「品質」・「契約」・「接客」に分類され、以下の事例が報告されています。(消費生活年報 独立行政法人 国民生活センター発行 より抜粋)
①クリーニングの品質・機能に関する相談
- しみが取れず、色落ちした。補償してほしい。
- 合成皮革がボロボロになった。返金だけでは納得できない。
- カーテンが縮んだ。買い換え費用が請求できるか。
- プリントが別の場所に移り、ベトベトになった。
②クリーニングの契約・解約に関する相談
- 振袖にほつれがあるとして、追加料金を請求された。
- ラグから白い粉がでる。接着剤が劣化したものと言われたが納得できない。
- 留袖をクリーニングに出した。預けた時に頼んだことと違うことをされ、料金も高く請求された。どうすればよいか。
- カシミヤのコートが硬くなり、着られない状態になった。提示の賠償額は妥当か。
③クリーニングの接客応対に関する相談
- 店員の態度が悪い。直接謝罪してほしい。近隣の店に勤務させないでほしい。
- クレームを言っても全く対応されず、納得できない。
- クリーニング店が責任を認めない。どうすればよいか。
- 業者にクレームを言ったが対応が悪い。
クリーニングの「取次所」数と相談件数 |
全国の消費生活センター等が扱ったクリーニングに関する相談件数がピークの時期は、クリーニングの「取次所」(洗たく物の処理をせず、受取・引渡のみを行うクリーニング所)の数のピーク時期と重なります。
「取次所」の数は1998年(平成10年)がピークで115,896まで増加し、取次店の過剰による過当競争が問題となりました。それよりも問題だったのは、クリーニング所のクリーニング師や店舗の従事者が、クリーニングに関する十分かつ最新の知識やスキルもなく、急激に増えた取次店で接客対応を行い、大量のクリーニング品を処理したことではないでしょうか。
1990年から、クリーニング師はその資質の向上を図るため「クリーニング師研修」を、クリーニング業務従事者は知識の修得及び技能の向上を図るため「クリーニング業務従事者講習」を受講するよう業務づけられています。この講習の効果によるものか、あるいは1991年のバブル崩壊によるものか、消費生活センターへの相談件数は一時的に減少しましたが、残念ながらすぐに増加に転じています。
その後、取次店の減少とともに、消費生活センターへの相談件数は減少しました。2023年度には、取次店はピーク時の約1/2に、クリーニングに関する相談件数はピーク時の約1/7まで減少しています。
クリーニング需要と相談件数 |
クリーニング需要のピークは1992年の8,170億円ですが、バブル崩壊後にはクリーニング需要は減少し続けます。クリーニング需要減少の要因は、家庭での洗濯の増加や衣類・生活習慣の変化など様々で、主な要因は以下の通りです。
クリーニング需要の減少要因
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クリーニング需要の減少に10年ほど遅れて、消費生活センターへの相談件数も減少に転じています。
2023年度には、クリーニング需要はピーク時の約1/3に、クリーニングに関する相談件数はピーク時の約1/7まで減少しています。
クリーニングに関する相談の割合 |
消費生活センターが扱った総相談件数に対するクリーニングに関する相談件数の割合は、ピーク時には6%を超えていましたが、2023年度には0.2%程度まで減少しています。
2023年度に消費生活センターが扱った、主な内容別分類の相談は以下の通りです
主な内容別分類の相談件数(2023年度、上位11位)
(割合は、内容別での割合)
2023年度に消費生活センターが扱ったクリーニングに関する相談件数は、「安全・品質」の分類では1,601件で、上位11位、全体の1.4%になります。「接客対応」の分類では、クリーニングに関する相談件数20位にも入りません。
クリーニングの品質が向上し、クリーニング事故が減少し、店舗での接客対応が改善されたことが、消費生活センターが扱うクリーニングに関する相談件数減少の主要因であると考えたいです。
以上
参考資料:消費生活年報 独立行政法人 国民生活センター発行
投稿者:ポニークリーニング生産部 技術顧問 高坂 孝一 |
1956年生まれ。群馬大学工学部繊維高分子工学科を卒業後、1979年株式会社白洋舍に入社。関連会社の共同リネンサプライ株式会社を経て1983年より白洋舍洗濯科学研究所に所属。2001年より同研究所所長に就任。2021年株式会社白洋舍を退職後、2022年9月よりポニークリーニング生産部の技術顧問に就任。 |