【研究室コラム】ドライクリーニング機械の進化
有機溶剤のパークロロエチレン(パーク)は、ドライクリーニング溶剤として世界的に最も多く使用されています。しかし、環境への影響があるため、ドライクリーニング機械(ドライ機)メーカーは、パークの消費量を最小限に抑える技術を開発してきました。その技術の進化は、パーク機の「世代(GENERATION)」で表現され、パークの消費量は世代ごとに確実に減少しています。
第1世代機 |
第1世代のドライ機は「トランスファー※1タイプ」又は「コールドタイプ※2」と呼ばれ、「洗い」だけの機械です。ドライ洗浄後のパークを含んだ衣類は、別置きの乾燥機へと移され乾燥されます。乾燥機からの溶剤ガスは大気中に排出されます。パーク消費率は、洗浄衣類の重量に対して約10%です。
※1トランスファー:「移る、移行する」「乗り換える」という意味
※2 コールドタイプ:乾燥機が別で、加熱乾燥できない機械のため
第1世代パーク機(Wauwatosa, Wisconsin提供)
第2世代機 |
第2世代機は「ドライ to ドライ」と呼ばれる機械で、洗浄(ドライクリーニング)と乾燥(ドライ)を1台の機械で処理し、第1世代の「コールドタイプ」に対して、「ホットタイプ」と呼ばれています。乾燥工程の溶剤蒸気は大気中に放出され、パークの消費率は約7%です。
第3世代機 |
第3世代機は、「クローズドタイプ」と呼ばれる密閉された機械で、大気中に溶剤ガスを排出しない設計になっています。乾燥工程時の溶剤蒸気は「冷蔵コンデンサー」で冷却して液体に戻し、回収されます。パークの消費率は約4%です。
第4世代機 |
第4世代のクローズドタイプ機は、「冷蔵コンデンサー」と「活性炭吸着器」を装備しています。乾燥工程中に「冷蔵コンデンサー」で冷却回収し、乾燥工程後に残っている溶剤ガスを「活性炭吸着器」で吸着回収します。パークの消費率は約2%です。
第4世代パーク機(Wauwatosa, Wisconsin提供)
第5世代機 |
第5世代のクローズドタイプ機には、第4世代の装備に加えて、機械内の溶剤蒸気が一定レベルを下回るまで、機械のドアやボタントラップ※3を開けることができない「センサー作動ロックアウト装置」が設備されています。パークの消費率は約1.5%です。
※3 ボタントラップ:繊維くずやボタンなどの異物を溶剤から取り除くためのトラップ
第5世代パーク機(FIRBIMATIC製)
第5世代パーク機(山本製作所製)
日本でも第5世代ドライ機と呼ばれるパーク機があります。環境を守るため、溶剤蒸気を外部に洩らさない密閉構造「クローズドタイプ」で、ドライ機内の溶剤蒸気濃度を下げる「活性炭回収装置」、溶剤が漏れた場合に地下浸透を防止する「オイルパン」、パーク溶剤を溶解した接触水を処理する「無排水システム装置」等を装備しています。
パーク溶剤は、他の化学物質と同様にその取扱いが厳しく規制されています。しかし、ドライクリーニングのパーク機は技術開発により溶剤消費量を極限まで削減することに成功しました。さらにドイツのドライ機メーカーのBÖWE社では、第6世代機(消費率0.3%、2004年)、第7世代機(消費率0.25%、2022年)と改良は続けられ、今後もパーク機は稼働を続けようとしています。
第7世代パーク機(BÖWE製)
参考資料:
The History of Dry-Cleaning Solvents and the Evolution of the Dry-Cleaning Machine (2020).
FACTBOOK BÖWE Textile Cleaning GmbH.