かつて洗濯業は、誰でも、簡単に、開業できる業種と思われていた時代があったようですが、現在のクリーニング業(ランドリーとドライクリーニング)では、そう簡単に開業し、経営を続けることができる業種ではありません。

◉ランドリーは、温水や洗剤・助剤(アルカリ剤、漂白剤等)を用いたクリーニング。

◉ドライクリーニングは、水や温水ではなく、石油系や塩素系の溶剤を用いたクリーニング。

 クリーニング所には、「一般クリーニング所」と洗たく物の処理をせず受取・引渡のみを行う「取次所」があります。クリーニング処理を行う一般クリーニング所には、業務用の洗濯機及び脱水機を少なくとも1台以上は備えるとともに、1名以上の「クリーニング師」を置かなければなりません。クリーニング師は、クリーニング業法に基づいて定められた国家資格で、各都道府県知事が行うクリーニング師試験に合格する必要があります。

 クリーニング所は洗たく機・脱水機を置くほか、さまざまな規制がかかっています。クリーニング所を開設しようとするときは、あらかじめクリーニング所開設届を保健所等に提出し、使用前に構造設備が基準に適合していることの確認を受けなければなりません。

クリーニング所の構造設備基準

洗い場 ◉洗い場の床はコンクリート、タイルなど不浸透性材料を使用し、適当な勾配と排水口を設ける。
格納設 ◉未洗濯物と洗濯済み、仕上げ済みを明確に区分した格納容器を適当数備える。(運搬容器も同じ区分)消毒を要する洗濯物は他の洗濯物と区分する。
業務用機械 ◉洗濯機及び脱水機をそれぞれ少なくとも1台は備える。
採光・照明・換気 ◉所内は充分な採光・照明・換気を確保する。
ドライ設備(パークを使用する場合) ◉溶剤の貯蔵場所は不浸透床、直射日光・雨水防止構造とする(溶剤の地下浸透等の防止)。

◉貯蔵タンクは密閉できる耐溶剤性容器とする(溶剤の揮発・発散・漏洩防止)。

◉廃液処理装置を設置する(溶剤の溶解した排水の排出防止)。

◉溶剤蒸気回収装置を設置する(溶剤ガスの大気中への排出防止)。

◉蒸留残渣物などは上記に準じた保管場所・容器に収納する(特別管理産業廃棄物に該当)。

◉局所排気装置などの換気設備を適正な位置に設ける(溶剤ガスの労働者への暴露防止)。

受取り・引渡し場所 ◉仕上り品と未洗濯物が混ざらないように区分する。

◉食品販売など相互に汚染する可能性がある営業施設と併設する場合は、境目に壁・板などにより障壁を設ける。

                      (目黒区の例)

クリーニング所で使用する溶剤

 石油系溶剤のような引火性のドライクリーニング溶剤を使用する場合は、「建築基準法」で用途地域が制限され、住居地域や商業地域などでの建築(操業)は禁止され、工業地域だけとなります。どうしても商業地域等での操業がしたければ、不燃性の塩素系溶剤やフッ素系溶剤を使用することになります。

 現在、日本では引火性の溶剤である石油系溶剤の設備が9割を超えています。しかも、この日本独自の石油系溶剤の引火点は約40℃と低く、「消防法」で貯蔵量や取扱い方法、施設の設備等が厳しく規制されていますが、引火爆発事故が毎年のように起きています。経営者は「労働安全衛生法」を遵守し、従業員の安全を確保し、事故防止の対策を取る必要があります。

 一方、世界的に最も多く使用されている塩素系溶剤(パーク)は不燃性で引火爆発の危険性はありませんが、環境汚染や急性中毒の恐れがあるため、水質・大気・土壌・廃棄物等の環境保全に関する法律、および労働衛生に関する法律で規制されており、その対策に多大な費用と労力が必要です。

 石油系溶剤とパークに関する廃棄物、例えば廃油や蒸留残渣、使用済の活性炭やろ過用のフィルターなど(いずれもドライクリーニング工場から定期的に排出される)は、すべて「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」で「特別管理産業廃棄物」に指定されています。特別管理産業廃棄物は、適正に保管し、収集・運搬・処分を専門の業者に委託し、最後まで適正に処理されたことを確認し、都道府県知事等に毎年報告する義務があります。

 フッ素系溶剤は不燃性で、代替品の開発により環境汚染の問題(オゾン層破壊、地球温暖化)が解決し、健康被害もありませんが、その単価が石油系用溶剤や塩素系溶剤の20倍以上と高く、一般的に使用できる溶剤ではありません。

 以上のように、現在のクリーニング業は環境への影響と従業員の安全を考慮し、法的にも、設備的にも、かなりの費用と労力を必要とする業種となっています。よって、これらに十分に適応できる業者のみが経営を許されるものと考えます。


投稿者:ポニークリーニング生産部 技術顧問 高坂 孝一 
1956年生まれ。群馬大学工学部繊維高分子工学科を卒業後、1979年株式会社白洋舍に入社。関連会社の共同リネンサプライ株式会社を経て1983年より白洋舍洗濯科学研究所に所属。2001年より同研究所所長に就任。2021年株式会社白洋舍を退職後、2022年9月よりポニークリーニング生産部の技術顧問に就任。